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悩み: 好きな人に嫉妬してしまいます。どう折り合いをつけていくべきでしょうか?―鳥の頭で考えた(4)

こんにちは、ハロボ編集部です!火曜日はお悩み相談「鳥の頭で考えた。」の日です。回答者は、アルファペンギンとして鋭いツイートを日々発信する鳥さんです。

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悩み:好きな人に嫉妬してしまいます

20代男性です。好きな人を尊敬より、嫉妬の対象として見てしまいます。最近デートをさせてもらっているいい感じの人がいます。彼は頭がよく、僕より給料が高いです。ことある場面で能力の違いを見せつけられて辛いです。頭の回転が早くて機転が効くので、デートの予定もサクサクたてたり、手配などもスムーズにやってくれます。

が、そのたびになんて自分がどんくさいんだろうと感じてしまいます。彼が以前努力してきたことは知っているし、別の生き物なんだと思えばそれまでなのですが、プライドが傷ついてしまう気がします。自分の中でどう折り合いをつけていくべきでしょうか?

回答:鳥さんからのアンサー🐧

鳥です。じめじめした天気が続きますね。日々の憂鬱は辛い物を食べて吹き飛ばしましょう。まあ鳥類ってカプサイシン感じないんですけど。

「行けそうで行けない場所」に抱く嫉妬

今回のご相談は「好きな人のスペックの高さに尊敬よりもむしろ嫉妬を抱いてしまう」もの。嫉妬の感情は、本来男も女もないはずですが、同性愛の性質上、異性愛の場合にくらべて問題はちょっと複雑です。

というのも、嫉妬は、ある程度自分に「近い」存在に対して抱くものだからです。例えば、ピアノを弾くことがだいすきな少年はプロのピアニストの才能に嫉妬はしても、メジャーリーガーにはしません。なりたい自分と相手とがそもそも同じ世界にいないからです。

その対象と自分の立つ場所とが、地続きであると思っているからこそ、「向こう側」がうらやましくなってしまう。うらやましいのは「そもそも行けない場所」ではなく「行けそうで行けない場所」なのです。

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男女にはあるが、同性にはない免罪符

ところで、同性愛の場合、当然ながら恋愛対象は同性です。異性愛の場合との決定的な違いは、スペックの差を社会的役割のすみわけの問題として「解消」できない点にあります。そのような社会的役割は、時として偏見の形で立ちあらわれます。

けれど、その是非とは別に、それによって我々が「許されている」のもまた事実です。料理の下手な女性はネタにされますが、男性が料理ができないことを揶揄されている場面はまず見られません。

男と女、この二元論で社会を語るとき、双方にとっての免罪符となりえる可能性があります。同性カップルだと免罪符がなく、自分を守れないのもまた事実です。

嫉妬のかたちで立ち現れた偏見

お話を聞くかぎり、あなたの好きな人は頭がよく、給料が高く、しかもデートを主体的かつ迅速に計画できる男性です。それらは関係を築くうえで、すばらしい長所です。

そんな彼のスペックに嫉妬してしまうのは、免罪符をもらえない同性同士の関係が、彼を近い存在にしているからだと鳥は考えます。

いま、あえて逆説的に、こんな仮定をしてみましょう。(繰り返すようですが、鳥類はパラドクスがだいすき。) 

もしも、あなたがあなたでなかったら、つまり、今の彼の長所がそっくりそのままあなたにも備わっていたら、あなたは彼に恋をしたでしょうか。彼の長所を美点として見いだせたでしょうか。コンプレックスを自認していたからこそ、あなたは彼のすばらしさに気づけたのではないでしょうか。

彼が彼になるまでの話を聴くことで消えるためらい

ここで鳥の個人的な話をさせてください。

弊ペンギンはつい先日、念願の家禽化を果たしました。(無粋を承知で言いかえれば、はじめて男性の恋人を持ちました。) (あ、そんなそんな、いいんですよお祝いなんて。)

家禽化に至る過程において、彼と初対面を果たしてからの数回は、鳥胸に芽生えた好意こそみずから気づいていたものの、彼に交際を申し込もうなどとは夢にも思いませんでした。彼は鳥よりずっと容姿端麗で、ずっと経済的に豊かで、ずっと鋭い視点を持ち、さまざまな分野にずっと明るかったからです。

そして、自分の得意に思えていた料理についても彼の方がずっと長けているように見えて、つまりは彼がまぶしい存在でした。コンプレックスがうずき始めたのです。「こんな『足りない』自分に、彼がふりむくはずはない」と。

しかし彼と話すうちに、躊躇は消えてゆきました。なぜなら、彼が今の彼になるまでの半生を聴くことで、彼がいま身につけているスキルや美点が、決して理由なく備わったものでないことを、痛感したからです。それらはすべて彼が生きてきたことの刻印であり、なかにはそれを得るため肌に遺さねばならなかった傷もありました。

表面的なスペックの高さではなく、背後にあるストーリーを読み取る

鳥は週に一度、彼にごはんを作ります。

食通の男にふるまう料理はいかにも緊張しますが、それはもはやコンプレックスゆえではありません。彼はたくさんの食材や料理に触れてきたことで、その一皿を作り上げるためにどんな苦心したのか、鳥がみずから言うまでもなくわかっているのです。

そうやって私たちは、たがいが、たがいの数々の美点を、まったく知らない場所で別個に浮き沈みしていたそれまでの半生を、誰より認め合いうる存在だと確信したのです。だから、鳥は彼にこう言いました。お待たせしました、と。

人はみな、背後にストーリーがあります。表面的なスペックの高さにとらわれていると、その背後のストーリーを見逃すこともありますし、そもそも普段はあまり出さない人もいるでしょう。でも、そこにこそ「彼の生きてきた刻印」があります。輝かしいことだけではない、彼自身が見えてくると思います。

月並みですが、まずは彼と深く語り合うことからはじめるべきではないでしょうか。

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嫉妬は他人のすばらしさを気づかせてくれるアドバイザー

私たちは、たいせつな人に対して、たし算もひき算もしてはいけないと思います。気に入らない点があるからといって、どこを削り、どう付け加えたら自分にとって都合いいか、などと想像することは、それだけで相手に対する無礼だと鳥は思います。そして、自分についてたし算ひき算することも、度がすぎれば不健康です。

しかし一方で、嫉妬にせよコンプレックスにせよ、それらはある程度までは必ずしも悪いものではないように思います。ものは使いようです。一見すると、やり場なく持て余してしまうネガティヴな感情のようですが、実際のところ、嫉妬とは、他人の美点のすばらしさ、そして自分の中に隠れている可能性と克己心のありかを、私たちに認識させるアドバイザーのようなものです。

日頃から鏡を磨く努力が重要

今のあなたは、なりたい自分を好きな人に投影し、しかし目下まだそれに到達できていないことに苦しんでいる。他者は自己の鏡映です。でも、鏡に映った姿が気に入らないからといって、鏡を壊しても映ったものが消えるわけではない。

それよりも、日頃から鏡を磨く努力が重要だと思います。丁寧に、たゆみなく。あらゆる目標がすぐに達成できるわけではありませんが、例えば、デートの計画などは、あなたが主体的に采配し、すぐにでも首尾よく動かせる具体的なタスクです。あるいは、彼とできるだけ共同・分担して計画するのもいい。ただ漫然と感心や嫉妬をしているのではなく、現実に彼のスキルを観察し、かろやかに盗んで手中に収めるのはいかがでしょうか

もしかしたらそういうやり方で、あなたの意中の男も、自分を磨き上げていったのかもしれない。そのつど何かを得たり失ったりしながら。

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あなたに向けられた気遣いの尊さを思いだして

ひるがえってシンプルに考えると、それだけ主体的にデートの計画をしてくれる人は、あなたに対して相当の愛着があるはずです。そして、彼が意識するとせざるとにかかわらず、愛着ある相手との関係構築にみずからのスキルを役立たせることは、誰にとっても喜びであると思います。嫉妬も偏見も厄介なしろものですが、それらに縛られそうになったときは、目の前の彼の姿、あなたに向けられた気遣いの尊さを思いだしてください

あなたと、あなたの好きな人。ふたりの関係性が今後どうなるか、それは鳥には知る由もないことです。しかし、やっと出会えたあなたがたです。一方的なコンプレックスで得られたはずのものを台無しにしてはもったいない。

彼の美点を素直に認め、ネガティヴな感情が消し飛んだ先に待っているのは、ふたりの幸福な日常のみならず、自己と他者への寛容さ、そして何より、自分のこれまでの生きざまに対するゆるがない確信かもしれないのです。

あなたと彼は今度どんなデートをするのでしょうか。これは提案なんですけど、水族館に行って数時間単位でペンギンを愛でに愛でるなんて、どう?

まとめ

  • 嫉妬は、ある程度自分に「近い」存在に対して抱くもの
  • 同性カップルは、スペックの差を社会的役割のすみわけの問題として「解消」できない点は、時として自分たちを苦しめてしまう
  • 表面的なスペックの高さにとらわれていると、その背後のストーリーを見逃す。まずはじっくり話を聞いてみるのも一つの手
  • 嫉妬とは、他人の美点のすばらしさを認識させるアドバイザーとしも使える。アドバイザーに耳を傾け、日頃から自分を磨く努力を

回答者プロフィール

twitter.com

「鳥です。平々凡々なアデリーペンギンです。普段は東京の大学でいろいろな人語を勉強しています。ホットココアのシメにアイスココア」


編集部より

同性カップルの悩みは絶えずとも、しばしば相手に自分を重ね合わせてしまうことはありますよね。嫉妬は決してネガティブな側面だけではないことに、気づかされました。

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